てぃーだブログ › 仲村清司の沖縄移住録@2018 › インガン

2006年07月04日

寿司はアチコーコーにかぎる

事務所の近くに、大東島料理を出してくれる店があって、内地から来た友人をよく連れて行く。そこで、注文するのがインガンダルマの刺身である。

インガンダルマについては以前書いたが、人間の体内で消化できない脂を含んでいる大東島特産の魚で、食べるとその脂が勝手に肛門から漏れ出てくる。

それがために、販売してはならないことになっていて、お漏らししてもかまわないという人だけが舌鼓を打つことを許されている。

友人たちには食べたあとに「グフフ。実はこの魚はね、〜」と、脂漏現象の話を切りだし、文字通り、ダマシダマシ食べさせている。要するに、その店には旅のお土産話になればと思って連れていくのだけど、先日出向いたら、それをはるかに上回る「お土産話的メニュー」が登場していた。

なんと、大東寿司の天ぷらである。大東寿司は醤油のタレに漬けこんだサワラやマグロを酢飯で握った南大東島の名物料理。すなわち、新鮮なナマの魚がウリモノで、それを油で揚げてしまったら、寿司とはいえなくなってしまう。

というより、ナマの魚を食うために日本人は寿司を食べに行くのである。だってそうでしょう。イカの握りを頼んで、「あいよ!」とばかりに寿司職人がイカを揚げ始め、「へい、お待ち! アツアツだよ」と、揚げたてのイカの天ぷらがのっかった寿司が出てきたらどうすんの。

そう、我が国では寿司の天ぷらなどあってはならない話なのだ。なので、いったいどういう間違いをしでかそうとしているのかと、恐々としていたのだが、出てきたものを見て目が点になりましたな。

揚げてあるのは、寿司ネタだけではなかったのだ。なんと、ネタが乗っかったシャリごと、すなわち、握った寿司を丸ごと天ぷらにしていたのである。衣は沖縄ふうに分厚く、見た目には何が入っているかわからない。店の人いわく、「ふと思いついた」からと、いかにも自慢げに話すのだが、こういう料理をふと思いついてしまうところがコワイ。

が、食べてみると不思議なことにうまいのだ。そんなふうに思った自分もコワイが、天ぷらといえばアチコーコーいちばん。これはなんとしても熱いうちにと、ハフハフしながら、あっというまに平らげてしまった。

そうして、「寿司は揚げたてのアツアツにかぎるね、やっぱし」などと楊枝でシーハーしつつ、「お土産用にもう一人前お願いね」と、注文する始末。というわけで、お土産話は本当にお土産になっていたという次第。チャンチャン。  

Posted by 仲村清司 at 19:41Comments(9)

2005年05月11日

お尻が濡れる食えないやつ

俗に「食えないやつ」という言葉がある。わるがしこくて気が許せない人間のことをいうが、先日その食えないやつを食う機会を得た。 

もちろん人間ではじゃあないよ。「インガンダルマ」という魚である。深海魚だから、そうは捕れるものではなく、幻の魚と呼ばれている。

分布は太平洋、インド洋、大西洋にかけての熱帯〜亜熱帯水域。沖縄では大東島周辺ではたまにハエナワにひっかかる。大きいものでは70〜80キロにもなるのだが、地元の漁師によると「豚みたいなヤナカーギ(ブス)」なのだそうだ。

しかし、刺身にすると大トロ級のウマサで、焼いても、炒めても、干物にしてもウハウハ的に箸がとまらなくなるらしい。
とはいえ、どんなにあとをひくウマサであっても、その箸はとめなくてはならないのだ。なぜかというと、この魚、脂ののりがよすぎるのである。

ここで「え?」と思った人もおられよう。そうなのだ。魚というのは脂が多いほどウマイはずなのだ。一般に沖縄の魚は脂ののりはよくないのだが、その少ない脂分を補うために油で揚げる料理が発達したともいわれている。沖縄名物のグルクンの唐揚げなんてのはその代表例といっていい。

そんななかにあって、インガンダルマに限っては脂ののりがよいのである。「だったら、パクパクやりましょう」といきたいところなのだが、実はその脂が問題なのである。なんと、この魚、吊すとボタボタ滴り落ちるほど脂が多いのである。しかも、その脂には人間の消化器官では吸収できないワックス成分が多量に含まれている。だから、食べすぎるとワックス成分が知らずに肛門からじわじわと染み出してくるというのである。


したがって、厚生省から流通禁止措置が出ているのだが、ただ、脂そのものは毒物ではないので自分で食べるぶんにはけっこう。産地の大東島では昔からこれを食する習慣があったのだが、インガンダルマとは「犬がダレる」という意味。こんな呼び方をしているぐらいだから、地元の人も食べ過ぎにはよほど注意してきたのだろう。

僕は以前からこいつに目を付けていて、「そんなにウマイのなら多少の脂漏れがあっても許す! ぜひとも食いたい」と周囲に吹聴していたのだけれど、ついにこのたび、あるルートを通してこれを入手することに成功したのである。


で、イカモノ大好きの同士3人とこの禁断の珍味を食おうということになったのだが、われわれにはコワイ妻がいる。その妻に、洗濯カゴの中に脱ぎ捨てた脂漏れパンツを発見されたらどうなるか。「あんたコレなに!いい年こいて、なにごと!」と、半殺しの目にあうのは火を見るより明らか。だからといって、「これはウンコではない、脂なのだ」といったとしても、よけいに話がこんがらがるだけだ。


そこで、全員紙オムツを履くことにした。いささか情けない格好になったが、これで準備万端である。
入手したのは干物タイプのもので、たくわんのように細長くなっていた。これをスライスしておそるおそる口にしたが、加工の段階で脂抜きされているせいか、いわれているほど脂っこいとは感じなかった。味のほうも鶏肉の燻製を食べているような感じで抵抗なく食える。


結局、20センチほどのブロックを全部食い尽くしたのだが、結論からいうと、やはりお漏らししておりましたね。僕はその日のうちに、二人は翌朝グリース状のソレと対面することになった。念のためいっておくと、5切れ以上食べるとどんな人でも出るのだそうだ。

というわけで、紙オムツを燃えるゴミの中にポイしたのだが、さぞかし、よく燃えたことであろうよ。なにしろ、脂まみれでしたから。  

Posted by 仲村清司 at 16:35Comments(12)