寿司はアチコーコーにかぎる

仲村清司

2006年07月04日 19:41

事務所の近くに、大東島料理を出してくれる店があって、内地から来た友人をよく連れて行く。そこで、注文するのがインガンダルマの刺身である。

インガンダルマについては以前書いたが、人間の体内で消化できない脂を含んでいる大東島特産の魚で、食べるとその脂が勝手に肛門から漏れ出てくる。

それがために、販売してはならないことになっていて、お漏らししてもかまわないという人だけが舌鼓を打つことを許されている。

友人たちには食べたあとに「グフフ。実はこの魚はね、〜」と、脂漏現象の話を切りだし、文字通り、ダマシダマシ食べさせている。要するに、その店には旅のお土産話になればと思って連れていくのだけど、先日出向いたら、それをはるかに上回る「お土産話的メニュー」が登場していた。

なんと、大東寿司の天ぷらである。大東寿司は醤油のタレに漬けこんだサワラやマグロを酢飯で握った南大東島の名物料理。すなわち、新鮮なナマの魚がウリモノで、それを油で揚げてしまったら、寿司とはいえなくなってしまう。

というより、ナマの魚を食うために日本人は寿司を食べに行くのである。だってそうでしょう。イカの握りを頼んで、「あいよ!」とばかりに寿司職人がイカを揚げ始め、「へい、お待ち! アツアツだよ」と、揚げたてのイカの天ぷらがのっかった寿司が出てきたらどうすんの。

そう、我が国では寿司の天ぷらなどあってはならない話なのだ。なので、いったいどういう間違いをしでかそうとしているのかと、恐々としていたのだが、出てきたものを見て目が点になりましたな。

揚げてあるのは、寿司ネタだけではなかったのだ。なんと、ネタが乗っかったシャリごと、すなわち、握った寿司を丸ごと天ぷらにしていたのである。衣は沖縄ふうに分厚く、見た目には何が入っているかわからない。店の人いわく、「ふと思いついた」からと、いかにも自慢げに話すのだが、こういう料理をふと思いついてしまうところがコワイ。

が、食べてみると不思議なことにうまいのだ。そんなふうに思った自分もコワイが、天ぷらといえばアチコーコーいちばん。これはなんとしても熱いうちにと、ハフハフしながら、あっというまに平らげてしまった。

そうして、「寿司は揚げたてのアツアツにかぎるね、やっぱし」などと楊枝でシーハーしつつ、「お土産用にもう一人前お願いね」と、注文する始末。というわけで、お土産話は本当にお土産になっていたという次第。チャンチャン。